かんがえる、かがんでいる人

考えたことをまとめます。

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ESGを数値化することについて(002)~算出へのアプローチ~

ESGを数値化するのであれば、二つのアプローチがあると私は考えます。

1)株式時価総額から純資産等を引いていく、いわば「のれん的アプローチ」

2)ESGという概念を構成する要素を一つ一つ数値化していく、いわば「積み上げアプローチ」

 

今、私が考えているのは、2)の「積み上げアプローチ」です。

今回の記事では、1)と2)の内容に関する私の理解を踏まえ、どうして2)の「積み上げアプローチ」を考えているのかを書きます。

 

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企業が発行する株式は上場すると売買が行われ価格が付きます。その価格に発行数をかけたものが時価総額になります。100円の株式を1億株発行している企業の時価総額は100億円です。

一方で、企業の財産である貸借対照表上の資産やそこから負債分を差し引いた純資産はそれ以下であることが多く、例えば、企業買収を行う際には60億円分の資産を持つ企業を100億円で買う、という事になります。

買収した会社は差し引き40億円分、余分にお金を払っています。企業会計では(既存資産の時価評価など色々と計算して)その差額を「のれん」とよびます。

最近ですとライザップさんの件でのれんが取りざたされた例が記憶に新しいでしょうか?

RIZAP、下方修正の背後に「負ののれん」:日経ビジネス電子版

ライザップさんの場合は、ボロボロの会社を安く買って「負ののれん」を産み出すという手法でしたが、一般的に買収を行うと「負でない」普通の「のれん」が生じます。

(持分プーリング法などは端折り、パーチェス法で説明を続けます)

これは、買い手がある企業を買収するからにはそれを用いてより良い成果(収益や利益)を上げられると考えているからなのですね。その源泉が買い手の運用能力にあるのであればのれんの額は小さくなるでしょうが、売り手の何らかのプレミアムにあるのであればのれんの額は大きくなるでしょう。

例えば、すごい設備を持っているけれど使いこなしていない企業があればそれを使いこなせる会社は買収を画策します。売り手はのれん分が少なくても納得するでしょう。優秀な人材が多く勤めている会社であれば、それは貸借対照表に乗らない企業価値なので多くののれんを支払う事は仕方のない事かもしれません。(リテンションとかに苦労しそうですが)

 

これはESGという観点からも同様です。社会貢献活動を長年行い地域に愛される企業を買収する時には、おそらく相応のプレミアムを支払う必要があるでしょう。

 

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「だったら売買が成立した時点の価額が公正な価格で、そこから当該企業の売却資産価値でも純資産価値でもなんでも引いて「のれん」を計算できるじゃない。その一部がESGの評価なんだから、全体からそれ以外を除いていけばESG評価の数値は出せるんじゃないの?」

それはそうなのですが、私は二つ問題があると考えます。

 

一つは、この買収価格が本当に公正な価格と言えるのか?という問題です。

例えば株式の売買であれば、多数の毛色が異なるプレイヤーが多数の売買取引を行う事で価格を形成しています。出来高が多ければ多いほど、おそらく真実に近い価格なのだと思うのです。しかし買収は、だましだまされ一回こっきりの出たとこ勝負。DDが甘けりゃ高値掴み、交渉力にも左右されます。理論値というか、神様の目線から見てかけ離れた価格で取引が成立しているんじゃないでしょうか?

そうなのであれば、売り手の資産額はある程度正確としても、差し引きされたのれんの額の信ぴょう性も低いものとなります。

 

もう一つは、十把一からげにしか超過収益力であるのれんを認識できないという点です。

先日の記事では

ton96o.hatenablog.com

合格ラインを決めるのが難しいので、細分化されたデータを提供することこそが利用者に資する情報になる、という話を書いています。「この企業のESG評価は何点だ!」という情報は(「結局どうなの?」という人にはウケがよさそうですが)使い勝手が悪く、「この観点では何点、その観点では何点」という情報こそが良いと私は考えています。そこから総合的にどういう処理をするのかは利用者こそが考える事です。

のれんの額が正しいとして、のれんは超過収益力を一括で「この金額だ!」とまとめてくれているので一見便利に思えます。確かに、のれんの額が100だとして、その中に含まれるESG評価額を算出するには他の要素を引いていく。例えば社会的評判が30だと算出されるのだとすれば70がESG評価額により近い額だと言えるでしょう。しかし、人材の質は?評判は?組織としての心理的安全性は?などの超過収益力それぞれを、のれんから見極めるのはかなり難しいと言わざるを得ません。

問題は二つあり、1)構成要素をすべて列挙することが難しい2)マイナスの構成要素がある場合、ESG評価額がのれん額を上回る可能性があるが、マイナスの超過収益力はプラスの超過収益力に比べて尚算出が難しい。なぜなら事故などの被害が起こる前にそれを算出できないから、と私は考えます。(例えば雰囲気が緩んでいる工場があり大規模な事故を起こしたとします。その事故を起こす以前に「雰囲気の緩み」をその事故がもたらした損害額や補償額で算出できる人はいますでしょうか?)

さらには、売買には感情が入り込みます。マイホームを購入する時や新車を購入する時を考えてください。実際の理論値に近い価格で購入したかどうかはともかく、少なくとも気分が高揚(もしくは責任からの憂鬱・意気消沈)したことは多くの人が経験していることだと思います。感情が大いに動いているのですね。熱狂やKKDで行われた取引が、理論値に近いものになるとは思えないのです。この感情が及ぼす影響は個別性が強く、さらには「そこに存在はするのだろうけれど測定はかなり難しい」ものだと考えます。

 

というわけで
・買収価格の信ぴょう性が低い
・信頼性の高いのれんの額を算出できたとしても、それを分解するのが難しい
以上から冒頭で表現した「のれん的アプローチ」は難易度が高いと考えます。

私が今行っているのは、のれんの理論値算出方法を考えているのではなく、ESG評価の数値化なのです。

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今後は、ESGそれぞれにおいて「どういう構成要素があるのか」「それぞれの数値測定方法と考えられる障害」「テンプレートとしての現在における構成要素の比率」

この順番で考えて良ければと思います。

他にも「企業のESG活動に関してIR・PRの効果をどう扱うのか?」など個別論点はありますが、気づき次第記事にしていければと。

今日はこんなところで。

 

ではでは。

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