前回の記事「企業保有の仮想通貨に対する会計基準について考えた」では現状決まっている会計基準に対する私の見解を述べました。
今回の記事では、まだ決まっていない事で、重要な「自社およびグループ会社が発行したトークン」について考えます。
会計の基礎知識はこちら、「ストックとは?フローとは?」をご覧ください。
前回は仮想通貨を取得する側の話、今回は発行する側の話、です。
まずは、仮想通貨である独自トークンの類型を考えます。
そして、現行会計で独自トークンがどのように扱えそうかを見ていきたいと思います。
非常に悔しいのですが、とてもまとまっているので参照させていただきます。
イケハヤさんはトークンを5つに分類しています。(順番は変えました)
A)デジタル通貨型
B)会員権型
C)配当型
D)利用料型
E)ブロックチェーンアセット型
それぞれを見ていきます。
A)デジタル通貨型
通貨としての仮想通貨です。これを渡して、お買い物ができます。ショッピングモールを自社が持っている場合、消費を掘り起こすことでしょう。今あるものに例えるのであれば「ポイント」です。DEXで他のトークンに変換となるとまた複雑になるので、そこは別の論点として考えます。
私は通貨としての仮想通貨が循環する世界を考えていますが、現状、仮想通貨対応していお店ですら、すぐにJPYに交換しているのが現状です。JPYへの交換を前提とした「ポイント」として今回は考えます。
B)会員権型
持っていることにより、何らかのサービスを受けられます。現実にあるものでいえばVALU。ゴルフ会員権なんて聞いたことあるのではないでしょうか?サービスを受けられるだけでなく、それを持っていること自体がステータス、みたいな。
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C)配当型
現実にあるものでいえば、優先株です。
優先株は議決権がない代わりに配当が多め、残余財産の分配が優先されます。(会社法108条1項)会社にとっては、経営に口出しを絶対にされたくない事が優先されるときに使われます。
社債(会社の借金)とは違います。
社債の利息は赤字でも払うものですが、優先株の配当は普通株に比べて優先される、多く払われるというだけで赤字の時は払われません。
利息を払う義務がない社債、と考える人もいるでしょう。それはあり得ません。なぜならお金を返済しなくていいからです。(そういう使い方をしますよね?)独自トークン発行の際に購入してもらい、そのトークンは流通市場で出回るため購入対価は自社の資本となります。
D)利用料型
今、開発が進んでいますね。DAppsを動かすための利用料です。
車を動かすためのガソリンです。
ゲームを動かすための、ゲーセンのメダルです。
注意すべきなのは、DAppsやバイナンスのような、トークンを利用する場所があるから意味がある、という点です。
現実にあるものでいえば、回数券、青春18切符なんてイメージしやすいと思います。
E)ブロックチェーンアセット型
これは毛色が違います。
トークンにならないよ!そんな声も聞こえそうです。
私も少し迷いましたがトークンとして考えます。
ゲーム上のトークンを利用して資産価値を高められたブロックチェーン上のコントラクトだと考えるからです。
えと、熱々のごはんも、のりも、塩も食べ物です。それらを合わせて握ったおむすびも食べ物です。
そんな感じ。
イケハヤさんはD)のDAppsゲーム内の資産を例に挙げています。多分それがわかりやすい例です。
私は D)の総和+ゲームにおける運要素の総和 が、このE)だと思います。
ゲーム内でD)を支払いキャラクター(資産)を育てます。そのタイミングでゲーム性としてレアな行動が起こります。キャラクターがいつもより倍に成長したり、レアアイテムを見つけたり。それによってE)がつくられるので、上記のような表現にしました。
現実にあるものでいえば、コレクションアイテムでしょうか?
記念切手を集めて一つのアルバムにすると価値が跳ね上がったり。
昔はビックリマンシールなんてのもありましたよね。友達と交換するのですが、一つのシールだけより、コンビで意味がある「そろい」になると価値が上がりました。
他にないかな?と考えたのですが、悔しいことに考えつきませんでした。
会計的に言うと
A)デジタル通貨型
ポイントだと通常引当金、消滅無しのものだと未払費用(ポイントは毎期継続して使われるので)、として処理されると認識しています。どちらにしても負債です。
B)会員権型
ゴルフ会員権だと株式型、預託保証金型があります。会員に、独自トークン発行運営体に対する議決権があれば株式に準じた純資産、なければ預かり金として負債、、、でしょうか。独自トークンで預託保証というのも変な話なので純資産です。
C)配当型
優先株と考えると純資産ですが、利息を取られない社債と考えると負債です。社債ではないと前述しましたので純資産ですね。
D)利用料型
サービスの前受金なので負債です。
E)ブロックチェーンアセット型
実は、これの扱いが難しいです。
じつは、利用者にとっての価値は「 D)の累積和+ゲームにおける運要素の総和 」で良いと思うのです。ところが独自トークン発行側にとっては、利用料を払ってもらった時点で売り上げに代わるので、それ以降は会計情報として財務諸表に乗らないと考えます。
負債か純資産かにこだわっている点、なぜかお分かりかと思います。
念のために言っておくと、自己資本比率などの経営分析指標が変わってくるんです。
なので、負債か純資産か、どちらに当たるのかを考えるのはとても重要です。
次に、独自トークンに対して、現存の会計処理を使って対応するとなるとどうなるのか、考えます。
1)未払費用
2)株式
3)前受金
1)未払費用
未払費用は、本業以外での継続的な取引で生じる債務です。
似たものに未払金があります。
未払金は、本業以外での、継続的でない取引で生じる債務です。
独自トークンの発行は、企業にとって、本業以外での継続的でない取引だと思われるので、未払金を採用しましょう。
会計に詳しくない方、未払金か未払費用かは、A)をどう扱うのかについて重要ではありません。負債になる、と私が考えていることをご理解ください。
トークン発行時に現金が入り、負債が増えます。
2)株式
優先株の会計処理は、ややこしいです。
日本の会計処理と、世界統一の会計処理(IFRS)では考え方が違います。
仮想通貨はグローバルに使われることを念頭においているとは思いますが日本の処理で行うとすると、
トークン発行時に現金が入り、純資産が増えます。
世界統一の会計処理で行うとすると
トークン発行時に現金が入り、負債が増えます。
このあたりの違いが独自トークンを採用するか否かに出てくると思われます。
自己資本比率が下がるのを嫌がるでしょう。
3)前受金
トークン発行時に現金が入り、負債が増えます。
トークンが利用されるごとに負債が減って、売り上げが計上されます。
どうにかこうにか、企業が発行するトークンを類型化すると既存の枠組みで何とかなるようです。
しかし、類型化できていないものがある可能性は否定できません。それが出てきた場合のために、包括的な(税でいえば雑所得、有価証券でいえばその他有価証券)扱いを取り決めておく必要があります。
さらに、独自トークンの性質が変化した場合に、どのように対応するのか、実務指針が必要です。
どちらにしろ、ユースケースがないと決まり自体作りようがなく、無いでは済まされないので、厳しめの規則ができることが予想されます。
前回も書きましたが「会計は、経済と実務と法律の交点」にあります。
現状ではユースケースを作る、へんてこな仕組みのDAppsであったとしても価値を提供できそうなら発信してみる、作ってみる、というのが私たちができることだと思います。
州の力が強い米国では足並みがそろわないが、こういうことが起きるんですね。仮想通貨の区分合わせて規制を変えるのは賛成。
— ton (@ton960) 2018年3月14日
米ワイオミング州、仮想通貨の新たな資産区分制定 https://t.co/J7lVCvQVGe via @Cointelegraph
アメリカ、ワイオミング州ではA)に当たる仮想通貨は商品と定義づけるようです。
商品化証券化の区分は、米国証券取引委員会(SEC)の規制を受けるか否かなので重要です。
仮想通貨の類型化は今後進んでいかざるを得ないでしょう。
そして、一つのパターンに当てはめ続けるのは現実的ではないので、変更した場合の施策が各国で研究されるはずです。
後にICOに関する記事を書いて、企業がICOをした場合の会計処理を考えようかな?と思っています。
参考情報
まだ仮想通貨持ってないの?